北原白秋を偲ぶ「水郷柳川」の水上パレードが毎年11月に行われています。ほおずき提灯やアンドンで飾ったどんこ舟が夜の柳川を川下りするのです。沿道はかがり火が燃え、幽玄な雰囲気になります。花火が上がり、水の精による歓迎の日吉太鼓・琴・ブラスバンドの演奏もあります。
しかし、残念ながらコロナウイルスの関係で今回は「開催中止」なりました。
だから、こんな年は、白秋の本を手に、詩の一つも読んでみたらどうでしょう?
紺屋のおろく
にくいあん畜生は紺屋のおろく
猫を擁へて夕日の浜を
知らぬ顔してしゃなしゃなと。
にくいあん畜生は筑前しぼり、
華奢な指さき濃青に染めて、
金の指輪もちらちらと。
にくいあん畜生は薄情な眼つき。
黒い前掛毛繻子か、セルか、
博多帯しめ、からころと。
にくいあん畜生と、擁へた猫と、
赤い入日にふとつまされて、
潟に陥つて死ねばよい。ホンニ、ホンニ……
柳川弁だからなんとなく私でもわかります。あん畜生は子供の頃によく使いました。
「あん畜生め、ただじゃおかんばい!」
知らぬ顔してしゃなしゃなと。これなんか紺屋の娘さんの歩く姿が目に浮かびます。
着飾って柳川の夕日の町をしゃなしゃなと歩く。
若い男共は、「よかおなごばい」と、てれーっと見とれているような・・・。
薄情な眼つきと書いてあるから、ちょとのぼせて、ツンとした娘さんかも知れません。
猫を抱えているから、黒猫のような気がします。
最後に、「潟に陥って死ねばよか」と云っている。
白秋も密かに見ていた一人なのですねー。
白秋生家の近くに沖ノ端の川があります。あの潟に陥って死ねと云っています。
白秋の胸中には、にくいあん畜生の娘さんが、実は、炎のように燃えていたのかも知れません。きっと、よかおなごだったのでしょう。今、柳川の町を歩いても、しゃなしゃなの可愛ゆい娘さんには出会わない。
ホンニ、ホンナコツです。